「エチオピアに井戸を掘るには何が大変か?」

ご挨拶

 はじめまして。JICA海外協力隊(途上国での草の根レベルのボランティア)の原さつきと申します。2009年に埼玉大学に入学し、現在はJICA海外協力隊として、エチオピアという国でロープポンプ(写真参照)という簡易井戸の普及、衛生状況の改善のために活動しています。

 ロープポンプは、ハンドルを回すとロープに付いたピストンが水を持ち上げるという仕組みになっています。穴を掘っただけの手掘り井戸と比べてゴミが入りにくく、子どもが落ちる危険性が少ない、比較的安価(2万円程度)であるといった点が特徴です。

ロープポンプ

活動場所(水局)の同僚とその家族

エチオピアと活動のご紹介

参加動機

 学生時代から「海外で働きたい」「貧しい人のために何かしたい」と漠然と思っていました。

 そのため在学中はグローバルな人材を育てることを目的としたGlobal Youth(GY)というプログラムに参加して英語力を伸ばし、アメリカへ10か月間の交換留学に行きました。また、国際開発の講義を受け、途上国の展望や課題についても学びました。講義で「これからの時代を引っ張るのはアフリカだ」という話を聞き、実際にアフリカに住んでみたいと思うようになりました。

 就職活動中、途上国で短期インターンシップをしたのですが、ITによるサービスを通じて暮らしがよくなっている様子を目にし、卒業後はITビジネスに携わる企業に就職しました。仕事に慣れてきたころ、熱意をもって国際開発を行う人々に出会い、「私もこの人たちのようになりたい」とJICA海外協力隊に参加しました。

エチオピアについて

 エチオピアという国についてどんなイメージがあるでしょうか?エチオピアは東アフリカの「アフリカの角」と呼ばれる場所に位置しています。人口は1億922万人と日本と同程度、面積は109.7万平方キロメートルと日本の3倍程あります。

コーヒー、マラソンが有名で、アフリカで唯一独立を保った国であるため独自の文化が残っています。2004年から2017年までは平均10%という高い経済成長を遂げた経緯がありますが、1人当たりのGNI(国民総所得)は790ドル(2018年、世界銀行、1,005ドル以下は低所得国に該当)と、人々の収入は十分とは言えません。

エチオピアの位置

エチオピアの食事

首都(アディスアベバ)の様子

活動紹介

 エチオピアでは郡政府の水局(市役所の給水課のようなもの)に所属し、手洗い活動、村の給水施設のチェック、ロープポンプの普及、維持管理といった活動をしています。

 エチオピアの給水率は58%と、サブサハラアフリカ平均66%を下回っています。村では自然に湧き出た水をそのまま飲んでいるケースも多く、中には虫が混じった水も確認されました。

水汲みに来る女性

自然に湧き出た水

水中にいた虫

給水施設の調査

苦労したこと

ロープポンプの設置

 ロープポンプ設置にあたり苦労したのは、水局の同僚との関係作りでした。水局の技術者にロープポンプの部品について尋ねたところ、正しいサイズと個数を把握しておらず、聞くたびに違う答えが返ってきました。技術者に「この部品は十分あるよ」と言われたので、「本当に?まずは一緒に数えよう」と返すと「なんで僕を信じないんだ」と険悪な雰囲気になることもありました。

 エチオピア人はプライドが高い人が多く、何度も聞くことで「自分が信用されていない」と受け取ってしまったのかもしれません。実際にその部品を数えると5個しかなく、それでも「ほかの場所にある」と譲りませんでした。そこで、「あなたはとても優秀な技術者だし信頼している。ただ、ロープポンプを設置するには正しく部品の個数を把握する必要があるため一緒に確認してほしい」と私の考えを伝えていきました。

 そうしたやりとりが2か月ほど続き、ようやく技術者と一緒にすべての部品の確認をすることができました。そうした対話や工夫を繰り返し、最終的には30台のロープポンプが設置されました。このように、ロープポンプの設置を通じてお互いの考え方や事情を理解しあうことが重要だと学びました。

部品の保管所

部品管理のため作成したチェックリスト

ロープポンプ設置の様子

活動場所からの撤退

 もうひとつ印象に残る事件がありました。

 治安の問題により活動場所だったシダマから撤退したことです。きっかけはシダマに住んでいる人々が、これまでの県レベルの行政構造から州への格上げを希望した運動を行ったことです。州になると、税収やシダマ語の公用化など大きな自治権を持つことができます。この運動がエスカレートし、シダマ民族の若者がシダマでない民族に対し「お前たちは出ていけ」と攻撃をするようになりました。

 エチオピアは80以上の民族が暮らす多民族国家で、それぞれの民族が固有の言語や文化を持っています。シダマ民族が自分達のことを自分達で決めていくことはとても重要なことです。ただ、行政が機能しなくなったり、住民同士の関係がぎくしゃくしたりと、政治が暮らしに大きく影響すると実感しました。

町の様子

壊されたレストラン

燃やされた車

最後に

 2020年の1月に活動が終了しますが、エチオピアに住んでよかったと思えることがたくさんありました。信頼できる同僚に出会えたこと、家族を大事にする文化や自給自足の豊かな暮らしなどです。水局の同僚以外にも、下宿先の大家さん一家、近所の子ども達など様々なところでのつながりもできました。

 一方で、エチオピアが抱える課題やエチオピア人の仕事への取り組み方など、日本との違いを感じました。そして活動を通じて、お金や物質の支援以上に人と人とのつながりが重要だと学ぶことができました。

 

 

水局の同僚

村の女性たち

※この原稿は、会報「けやき会2020」に掲載したものを、本人のご了解の上、転載したものです。ご了承ください。